おっちゃんと新宿

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ーおっちゃん次の現場どこなん?
 ◯◯。
ーちょ、今から横乗っていい?
 いいよ。
ーやったーおっちゃんともっと喋りたいです。
 お、実は俺もね、お兄さん来てくれると思って楽しみにしてたんだよ。今荷物のけるから待ってね。

一日中頑張ったって日当1万にもならない。
夕方には家を出て、朝方に帰宅。
昼には起き、研究を継続。自炊、また仕事。
年齢は70を超える。
1人で、ダンボールの回収に回り、積み上げ、荷台からジャンプして下りる。

「30分あれば着く」っておっちゃんが言ったから、それなら終電もあるし大丈夫とか考えたのに、もう一向に次の現場に向かう気配もなく助手席に座り・話しこみ30分は経った。
ーおっちゃん次の現場 時間大丈夫?僕も終電だけ確認するね
とこちらから出発を促す発言もしてしまったが……

3ヶ月前に都内で引っ越しをし、僕はそれからほぼ毎日、新宿を歩くようになった。家にテレビがないため自主的にニュースを見ないと情報が入らないが、YouTubeなどを開くと、新宿・特に歌舞伎町はコロナの感染で警戒が必要などと耳にする。

ギラギラとまぶしい看板が立ち並び、ギラギラした目で、路上を歩く女性に声をかける男性達が多い。「新宿区は路上での客引き、勧誘行為は禁止です。路上で声をかけられても客引きについていかないで下さい」(新宿商店街で反復する放送)

ネズミやゴキブリ、人の吐いたものや出したもの、臭いし、うるさい、から出来れば近づかなくてもいい。夜の新宿はギンギラギンでガンギマリの印象が強く、「楽しい」などの思いで街を徘徊してる気はあまりない。

まだまだその視点は浅はかで語るに足りない気がするが、たった3ヶ月通い続けるだけでも 最初に抱いた印象から少しづつ変わり始めた。

ここ新宿には色んな人の欲が集まり、それを満たす場所やそれに従事する人が集まるが、そのギラギラとは対照的に、派手さはないが、愚直に、真面目に、ひたむきに生きる人の姿がすぐ隣にある様に思う。そこをゆーっくり歩いたり、繰り返し同じ場所を訪ねていれば、歌舞伎町付近の路上生活者にホストの方が毎日お弁当を渡していたり、街を歩く男性に「マッサージ。こっち来て」とキャッチを行う女性が「寒くない様に」と路上生活者にカイロ渡していたり。逆も然り。
ある時はベロベロの泥酔姿でタクシーから降りてきた女性(飲食関係)が、路上生活者を見かけるなり「なんかいる?」と話しかけ、コンビニでちくわ、ビール、タバコを購入し「明日の朝ごはん用。風邪引くなよ」と1,500円を渡し消えていった。聞けば年齢は「21ちゃい」北海道から出てきたと言った。

こんな人にも会った。
「風俗店で働きながら夫の借金を返済してる」外国から来た女性(30代)。逆に、コロナで5カ月間職を失い「奥さんの金で食っている」と語った男性は、失業手当の30万円を受け取ったその日、奥さんでなく風俗から出てきた。腹が減ったらよく行く新宿の中華料理屋◯◯の配達員として働く女性(20代・外国籍)は「毎月3万円」を自国の家族へ送金していると教えてくれた。イブの日に出会った女性(外国籍・日本永住権取得済み)はコロナで3月に職を失い、現在は知り合いの店でホールスタッフとして働く。「日本語喋れないから、どこも仕事ダメ(採用してくれない)。(勤務時間は夜)6時から終電まで」。この人にも10歳と7歳の子供がいる。

おっちゃんは終始自分のペースで、こっちが話を理解してるか・してないかなんて一度も伺いもせず、べらべら べらべら 好き勝手喋り続けた。そのせいか1時間近く熱弁してくれたその研究の話はほとんど理解できなかった。というより、
歳を重ねても日々に目を背けず、今尚黙々と勉強し続けている人がいる事実はどこまでも僕を笑顔にしたし、話なんてどうでもいいから、今、その横顔や姿をしっかり目に焼き付けたいと、途中から聞く耳を持てなくなった。もちろんおっちゃんは、そんな適当な相槌を気にすることもなく、左からの必要以上の視線を気にすることもなく、喋り、喋り、運転した。
「はは。こんなんじゃまだ話したいことの10分の1も話せてないや」別れ際に放たれた台詞。
(うん、おっちゃん、まだまだ元気そうやね)

「また来週に続きでも聞いてよ」
うん、来週。同じ時間にね。

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