赤いドレス

長い梅雨が明けた土曜日。僕は代々木公園にいた。

久々の天気に気分も高揚し、その日は未だに慣れない声をかけるという作業もリズムよく出来ていた。

そんな中、1人の男性が公園の中央から離れた場所で、ギターを弾いているのが見えた。

その人の様子は渋谷や新宿で見かけるパフォーマーとは違い、
・声を出し歌ってはいる
・ギターも周囲に聞こえる音で弾いてはいる
が、声を遠くへ飛ばしたり、前を通る人にアイコンタクトを送ったりすることはなく、
そっと演奏してます、聞くんだったらお好きにどうぞ、という雰囲気があった。

(ここで急に話しかけ演奏を止めても申し訳ないし...)と自分が声をかけないことを肯定する理由が思いつき一回横を通り過ぎたが、いやいや待てよと晴天が後押しをくれ、クルリと方向を変え もう一度その人に向かって歩いた。

僕:「あの、ちょっと演奏聴いて行ってもいいですか?」
その人:「あ、ははは。そんな大して何も弾いてないですよ。まぁ大丈夫ですけど」

と短い言葉を交わし、その人はiPadを見ながら曲を決め、演奏を始めた。誰の何の曲かは分からなかったが、その人の声をとても素敵に感じた。一曲目が終わった時、自分が写真好きな者で、よかったら二曲目の演奏中に撮影させてほしいことを伝えた。

声をかける前に抱いた印象とは異なり、明るくよく笑う人だった。同時に(あなたはどこの誰ですか?)と警戒されていることも、笑顔から見て取れた。

その人:「なんか、(曲の)リクエストとかありますか?」
僕:「あ、普段どんな音楽聴かれるんですか?」
その人:「J-POPとかですかねぇ」
僕:「あぁ、そしたら.....」
とすぐ曲名を言おうとしたのだが、なんとなくその人が普段練習してる曲と全然違うものをリクエストしてしまったらどうしようとか、パッと適当に言った曲が難しくてその人が頑張ってるのを見たらどうしようと不安になり、結局そんなことを考えてるうちに「まぁそんなん急に聞かれても難しいですよね」とその人が自分で曲を選び演奏を始めた。

untitled-25.jpg

おそらくこの二曲目は、その人が気を使って選んでくれた誰でも知ってるあの曲みたいなものであったが、案の定僕には分からなかった。
(なんか曲が終わったら言わないとあかんのかなぁ...)とまた余計なことが頭をよぎったが、いやいやと また晴天が何をしにここへ来たのか思い出させてくれ、その人が歌う姿に集中しカメラを向けた。

すると30mほど離れたとこからだろうか、自転車を漕いだ女性がこちらを笑顔で見ているのが視界に入った。公園中の緑に対比した女性の赤いドレス姿はとても綺麗で、僕は何を思ったのかとっさに立ち上がり「HEY〜!」と大きく手を振った。女性も運転する片方の手を挙げ振り返してくれ、気付いた時には演奏していた男性にも「ちょっと見て下さい!めっちゃカッコいい人いますよ!」と伝え、半強制的に「お〜い〜!」と手を挙げ一緒に振ってもらった。

女性を乗せた自転車はサイクリングコースの下り坂に差しかかろうとしていて、女性はもう一度手を高く挙げ、口で「Bye Bye」と言っているのが分かった。(あの人も撮りたい!)とその瞬間に思いはしたが、ほんの数分前に知り合い、既に2曲も弾いてくれた(それもまだ2曲目は途中)人に「あ、ちょっと、あの人の後追いかけます!」なんて言えず、「ひゃ〜カッコ良かったですね」と会話を続けた。

untitled-24.jpg

その後、10分程お話を続けていると奇遇にもその人が同い年であることが分かり、連絡先を交換して別れた。
その後も公園内を歩き、何名か声をかけては写真を撮ったり・断られたりを繰り返し、ついに予備で持ってきたフィルムも残り4枚となった。時間も既に17時20分を回り、18時に閉まる現像所に行くには、と徐々に足も駅へと向かった。
その時だった。パッと左手に赤いドレスが映り、お互いに「あっ!」となって、笑顔で挨拶をした。

untitled-26.jpg

フランスの大学を卒業と同時に日本への語学留学を決め、現在専門学校にて学習を行うファトウさん。卒業まではあと1年あり、今は日本語能力試験2級取得を目指し、日本就職を夢見る。彼女との会話の中で印象に残ったことがある。フランスでは大学を卒業した新卒が初任給でもらう平均給与が31万7千円/月。もちろん仕事内容によってその額は異なるし、日本との税率の違いもあるとの説明だったが、日本の新卒平均が20万円/月と分かっていながらも どうして、日本を選ぶのだろうかと疑問に思った。発展途上国の方が出稼ぎ目的で国を渡るそれとはまた異なり、彼女の場合は本当に日本文化が好きだということだった。

Previous
Previous

水本雄貴

Next
Next

高速そば