昼休み

昼休み、休憩時、ふとコンビニへ寄りたくなった時、

会社のオフィスを出るたびに確認する場所がある。

誰かは知らないが、東京で働き始めてからのこの5ヶ月間、

ずっと気になる人が僕にはいた。

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その人はいつもタバコ休憩のためビル2階のバルコニーへ出て、

せかせか急ぐ歩行者を見ながら一服している。

ただその様がなんともかっこよく、毎度のよう足を止めては見入ってしまう。

12時13時の眩しい太陽光がバルコニーへ差し込み、

むやみに置かれたであろう植物たちもその時間だけは光り輝いて見える。

ただその人とタイミングが合わない限り、その様子を見れやしないし、

「今日こそは」とカメラを持って出ても現れないことばかりだった。

そんな中、一週間前のこと。

その日もお昼休憩にランチを買いに外へ出た。

同僚のデリも一緒。

楽しくお話しをしながら信号を渡り、ビルの2階へ顔を上げると、

そこにはいつもと同じ上着をまとい、何か考え事をしているかの表情で一服する”その人”の姿があった。

僕の右手にはもちろんカメラもある。

あとは声をかけるだけ。

僕は大きく手を振って気付いてもらい、右手に持ったカメラを左手で指差し、

「いつも見てました。写真撮らせてください!」と大きめの声で伝える。

一枚だけシャッターを切って、「ありがとうございました」と言い、

そのお礼に親指を立ててグッドサインを出してくれた”その人”に、

僕もグッドサインを返しその場を離れた。

時間にして10秒ほどの出来事。

でも一瞬で人を信用し、笑顔とグッドサインで見送ってくれたあの優しさが僕の心にはとても気持ちよかった。

「絶対良い人。もっと話したい。」

そんな思いからちょうど一週間後の昼休み。

5分でランチを済ませ外に出て、いつものビルへ急いだ。

今日会えるかなんて分からない、がとりあえず休憩時間の許す限り待とうと決めた。

今回は遠くから撮りたいのではない、近くからポートレートが撮りたい。

そのため事前にバルコニーへのアクセスも確認した。

それから15分ほど外で待ったのだろうか。

突如扉が開き、いつもと同じ白い上着が現れた。

僕に笑みがこぼれる。

「おっしゃ」

急いでエレベーターの「2」を押し、驚かさないよう丁寧に扉をあけて挨拶する。

「こんにちは」

「うお〜これはこれは!この前の写真を撮ってくれた青年!」

あ、覚えていてくれた。

その一言で余計な不安や緊張が全部飛び、お互いが笑顔で会話を始める。

ずっとその容姿から料理人だと思って眺めていたその人は、

聞けば81歳で現役の歯科医だった。


そこから20分弱会話をし、次の患者の診断へ戻られた。

エレベーターが閉まりきるまで頭を深々と下げて見送ってくれた。

この一連の出来事全てが僕の中では優しく残る。

時間にしたらごくわずかなこと。

ただこんな出会いがあれば一日中幸せな気持ちでいれることは言うまでもない。

また昼時に見かけたならば、何度でも手を振って挨拶をしたい。

今になって気付くが、5ヶ月の間、なんとなく頭の片隅にあって、

いつも目に映る度に感銘したり考えたりを繰り返してきた。

それは同時に、その情景を目にしていない余暇の時間に想像するきっかけを与えてくれていた訳でもあり、

接点を持てた瞬間に思いがこみ上げる体験もあれば、自分の想像でしかなかったものを写真として物体化し手に取れるように変わり、そして周りの人にも共通物として共有できる嬉しさを教えてくれた。

写真を行う観点から見ても、自分の行動を肯定し、納得して消化できる出会いになった気がした。

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